「判例道場」第15回
【第14回解答】
労働基準法26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活をその規定する限度で保障しようとする趣旨によるものであって、同条項が民法536条2項の適用を排除するものではなく、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである。休業手当の制度は、賃金の全額を保障するものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものである。そうすると、労働基準法26条の解釈適用にあたっては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とする。このようにみると「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。
〔選択肢〕
A ① 選択 ② 共存 ③ 競合 ④ 併存
B ① 適合性原則 ②信義誠実の原則 ③ 一般原則たる帰属主義 ④ 一般原則たる過失責任主義
〔解説〕
- 科目「労働基準法」:難易度「難問」
- 解答根拠
最判昭和62.7.17「ノースウエスト航空事件」
- 事案概要
会社Aは、従業員組合による部分スト(労働組合の組合員の一部だけが参加するストライキ)によって通常業務の遂行が不可能となったため、当該部分ストに参加していなかった労働者Xに対して休業を命じ、その間の賃金を支払わなかったことから、Xが当該期間における賃金ないし休業手当の支払を求めて争った事案
- 論点
労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の範囲は、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」の範囲より広いか
- 結論
広い(休業手当の制度は、右のとおり労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たっては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義(※)とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。)
※)「過失責任主義」とは…「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」という民事責任上の法原則をいう。
〔第15回問題〕
労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、 C 、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される。また、割増賃金の算定方法は、労働基準法37条等に具体的に定められているが、労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、使用者が、労働契約に基づき、労働基準法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではない。他方において、使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、割増賃金として支払われた金額が、 D に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ、その前提として、労働契約における賃金の定めにつき、 D に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である。
〔選択肢〕
C ① 労働の対価を確保し ② 時間外労働等を抑制し ③ 労働者の生活の安定を図り ④ 労使関係の安定を図り
D ① 平均賃金 ② 通常の労働日の賃金 ③ 通常の労働時間の賃金 ④基準内賃金