「判例道場」第18回

【第17回解答】

憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、財産権の行使、営業その他広く経済活動の事由をも基本的人権として保障している。それゆえ、起業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するにあたり、いななる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。

〔選択肢〕

① 言論 ② 思想、信条 ③ 精神 ④ 社会的身分

〔解説〕

  • 科目「労働基準法」:難易度「平易」
  • 解答根拠

最判昭和48.12.12「三菱樹脂事件」

  • 事案概要

入社試験の際、「学生運動に関する経歴」を秘匿し虚偽の申告をしたことを理由として会社Aに本採用を拒否されたXが、その無効を訴えた事案

  • 論点

使用者は、労働者の思想・信条を理由に、採用を拒否してもよいか

  • 結論

よい(憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。憲法14条(法の下の平等)の規定が私人のこのような行為を直接禁止するものでないことは前記のとおりであり、また、労働基準法3条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない。また、思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公序良俗(※)違反と解すべき根拠も見出すことはできない。)

※)「公序良俗」とは…公の秩序と善良の風俗(社会の一般的道徳観念)のこと。私人間においては、原則として法律行為の自由が認められているが、無制限にこれを認めると、公の秩序や善良の風俗が害されるおそれがあるため、民法90条において、「公序良俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とする。」と規定している。

〔第18回問題〕

労働基準法7条が、特に、労働者に対し労働時間中における公民としての権威の行使及び公の職務の執行を保障していることにかんがみるときは、公職の就任を使用者の承認にかからしめ、その承認を得ずして公職に就任した者を懲戒解雇に附する旨の就業規則の条項は、右労働基準法の規定の趣旨に反し、無効のものと解すべきである。

従って、所論のごとく公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害する虞れのある場合においても、 B に附するは格別、同条項を適用して従業員を懲戒解雇に附することは許されないものといわなければならない。

〔選択肢〕

① 普通解雇 ② 諭旨解雇 ③ 出勤停止 ④ 戒告処分

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