「判例道場」第8回

【第7回解答】

賞与の対象期間の出勤率が90%以上であることを賞与の支給要件とする就業規則の規定における出勤率の算定に当たり、労働基準法第65条の定める産前産後休業等を出勤日数に含めない取扱いについて、同条の趣旨に照らすと、これにより産前産後休業の取得の権利等の行使を抑制し、ひいては労働基準法等が上記権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合に限り、公序に反するものとして無効となる。

〔選択肢〕

① 権利の濫用 ② 公序に反するもの ③ 不法行為 ④ 信義に反するもの

〔解説〕

  • 科目「労働基準法」:難易度「普通」
  • 解答根拠

最判平成15.12.4「東朋学園事件」

  • 事案概要

学園Aの給与規定には、賞与の支給要件として支給対象期間の出勤率が90パーセント以上であることが必要とされており、産後休業日数を欠勤日数に算入するという取扱いが定められていた。職員Xは、この規定により賞与支給対象期間における出勤率が90パーセントに達せず、賞与が支給されなかったため、このような取扱いは労働基準法65条の趣旨に反し無効であるとして、学園Aに対して賞与の支払いを求めて訴えた事案

  • 論点

法律によって保障されている休業期間(産前産後休業期間等)は、賞与の支給要件との関係で欠勤扱いにすることは有効か

  • 結論

無効(従業員の出勤率の低下防止等に観点から、出勤率の低い者につきある種の経済的利益を得られないこととするのは、一応の経済的合理性を有するものであるが、本件90%条項は、産前産後休業(労働基準法65条)や育児休業法10条(現行の育児介護休業法23条)を受けて定められた勤務時間の短縮措置を請求しうる法的利益に基づく不就労を含めて出勤率を算定するものであるが、これらの法規定の趣旨に照らすと、これにより上記権利等の行使を抑制し、ひいては労働基準法等が権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合にかぎり、公序(※)に反するものとして無効となる。)

※)「公序」とは…社会一般の人々が守るべき秩序のことをいう。

 

【第8回問題】

労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、 A 、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される。また、割増賃金の算定方法は、労働基準法37条等に具体的に定められているが、労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、使用者が、労働契約に基づき、労働基準法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではない。

他方において、使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、割増賃金として支払われた金額が、 B に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ、その前提として、労働契約における賃金の定めにつき、 B に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である。

〔選択肢〕

A ① 労働の対価を確保し ② 労働者の生活の安定を図り ③ 時間外労働等を抑制し ④ 労使関係の安定を図り

B ① 平均賃金 ② 通常の労働時間の賃金 ③ 通常の労働日の賃金 ④ 基準内賃金

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