「判例道場」第14回
【第13回解答】
年次有給休暇に関する労働基準法39条1項ないし3項の規定については、労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な始期と終期を特定して右の時季指定をしたときは、客観的に同条5項ただし書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。すなわち、これを端的にいえば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、年次有給休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない。
〔選択肢〕
D ① 就労義務 ② 使用者の時季指定権 ③ 賃金請求権 ④ 労働契約上の義務
E ① 使用者による時季変更権の不行使を解除条件 ② 使用者による時季変更権の不行使を停止条件 ③ 労働者の適法な時季指定権を必須条件 ④ 使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件
〔解説〕
- 科目「労働基準法」:難易度「難問」
- 解答根拠
最判昭和48.3.2「白石営林署事件」
- 事案概要
営林署職員Xが、他署の処分撤回闘争(ストライキ)を支援する意図で有給休暇を請求し休暇をとったことに対して営林署長がこれを承認せずその日の給料をカットしたため、Xがそのカット分の支払いを求めて訴えた事案
- 論点
年次有給休暇の取得には、使用者の承認は必要か
- 結論
不要(年次有給休暇の権利は、労働基準法39条1、2項の要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまって始めて生ずるものではなく、また、同条5項にいう「請求」とは、休暇の時季にのみかかる文言であって、その趣旨は、休暇の時季の「指定」にほかならないものと解すべきである。〔…中略…〕
すなわち、これを端的にいえば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件(※)として発生するのであって、年次有給休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない。〔…中略…〕年次有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である。)
※)「解除条件」とは…その成就によって法律行為の効力が消滅することとなる条件のこと。上記の判旨においていえば、使用者の適法な時季変更権の行使が解除条件であり、その結果、時季指定権の効力が消滅することとなる。
〔第14回問題〕
労働基準法26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活をその規定する限度で保障しようとする趣旨によるものであって、同条項が民法536条2項の適用を排除するものではなく、休業手当請求権と賃金請求権とは A しうるものである。休業手当の制度は、賃金の全額を保障するものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものである。そうすると、労働基準法26条の解釈適用にあたっては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とする。このようにみると「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における B とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。
〔選択肢〕
A ① 選択 ② 共存 ③ 競合 ④ 併存
B ① 適合性原則 ②信義誠実の原則 ③ 一般原則たる帰属主義 ④ 一般原則たる過失責任主義