「判例道場」第22回
【第21回解答】
労働者の賃金は、労働者の生活を支える重要な財源で、日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることは、労働政策の上から極めて必要なことであり、労働基準法24条1項が、賃金は同項但書の場合を除きその全額を直接労働者に支払わなければならない旨を規定しているのも、右にのべた趣旨を、その法意とするものというべきである。
しからば同条項は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変りはない。
〔選択肢〕
A ① その全額を直接 ② その全額を通貨で ③ 毎月1回以上一定の期日を定めて④ 通貨で直接
B ① 不作為 ② 不法行為 ③ 故意の犯罪行為 ④ 重大な過失
〔解説〕
- 科目「労働基準法」:難易度「普通」
- 解答根拠
最判昭和36.5.31「日本勧業経済会事件」
- 事案概要
倒産した会社Aの従業員であったXが会社Aに対して未払賃金の支払いを求めたところ、会社Aは、Xの会社Aに対する背任行為(破産後会社Aが保管していた金品を、Xが勝手に投資者に返還した行為)があったとして、これによる会社AのXに対する損害賠償請求権と、Xが主張する賃金債権との相殺の意思表示をしたため、その(「賃金全額払の原則」に対する)適法性が争われた事案
- 論点
労働者の「賃金債権」に対して、使用者が労働者に対して有する「不法行為を原因とする債権」をもって相殺することは許されるか
- 結論
許されない(「賃金全額払の原則」に違反する)(労働者の賃金は、労働者の生活を支える重要な財源で、日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることは、労働政策の上から極めて必要なことであり労働基準法24条1項が、賃金は同項ただし書の場合を除きその全額を直接労働者に支払わなければならない旨を規定しているのも、右にのべた趣旨を、その法意とするものというべきである。しからば同条項は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権を持って相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為(※)を原因としたものであっても変わりはない。)
※)「不法行為」とは…ある者が他人の権利ないし利益を違法に侵害する行為をいう。
〔第22回問題〕
雇用契約に基づき使用者の指揮命令、監督のもとに労務を提供する従業員は、休憩時間中は、労働基準法34条3項により、 C 、この時間を自由に利用することができ、もとよりこの時間をビラ配り等のために利用することも自由であって、使用者が従業員の休憩時間の自由利用を妨げれば同項違反の問題を生じ、休憩時間の自由利用として許される行為をとらえて懲戒処分をすることも許されないことは、当然である。
しかしながら、休憩時間の自由利用といっても、それは時間を自由に利用することが認められたものにすぎず、その時間の自由な利用が企業施設内において行われる場合には、使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な制約を免れることはできない。
また、従業員は労働契約上 D を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律に基づく制約は受けないが、右以外の D 維持の要請に基づく規律による制約は免れない。
〔選択肢〕
C ① 労働契約上の義務を免れ ② 就業場所を離れ ③ 使用者の指揮命令権の拘束を離れ ④ 私的時間として
D ① 健全な労使関係 ② 快適な職場環境 ③ 企業活動 ④ 企業秩序