「判例道場」第25回

【第24回解答】

法24条1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の 経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合においては、同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である。

〔選択肢〕

A ① 職業生活 ② 経済生活 ③ 人たるに値する生活 ④ 家庭生活

B ① 一方的な ② 積極的な ③ 自由な ④ 能動的な

〔解説〕

  • 科目「労働基準法」:難易度「普通」
  • 解答根拠

最判平成2.11.26「日新製鋼事件」

  • 事案概要

従業員Aは、住宅資金として、会社Bから借入れをした。この借入金は、Aの退職の際に、退職金から返済することになっていた。その後従業員Aは、交際費等の出費に充てるために借財を重ね、破産宣告を受けた。会社Bは、事前の取決めどおり、従業員Aの依頼もあって、退職金は、その返済費用を控除した額を支払った。従業員Aの破産管財人(※)Xが、会社Bによる退職金からの返済費用の控除は法24条(賃金の全額払)に違反して違法であるとして、退職金の全額の支払いを求めて訴えた事案

※)「破産管財人」とは…破産者の財産を管理し、換価して破産債権者への配当を行うなど、破産手続において最も中核的な任務を行う者をいう。

  • 論点

労働者の退職金債権と使用者の労働者に対する債権とを相殺する合意は有効か

  • 結論

その相殺が労働者の自由な意思によるものであることが明確であれば、有効(労働基準法24条1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である。)

〔第25回問題〕

法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況等を踏まえ、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。

このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと、前年度の総暦日の中で、就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは、不可抗力や使用側に起因する経営、管理上の障害による休業日等のように、 C の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として、上記出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に D と解するのが相当である。

〔選択肢〕

C ① 当事者間の衡平等 ② 無過失責任等 ③ 法の下の平等 ④ 過失責任等

D ① 影響を与えない ② 含まれない ③ 影響を与える ④ 含まれる

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