「判例道場」第28回

【第27回解答】

使用者がその企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行う、いわゆる所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上つねに人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行われるところであるとしても、また、それが労働基準法所定の手続を経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行われ、これについて従業員組合または当該従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもって、当然に適法視されるものではない。

問題は、その検査の方法ないし程度であって、所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。

そして、このようなものとしての所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて行われるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務がある。

〔選択肢〕

A:① 基本的人権 ② 素行 ③ 信用 ④ 服務

B:① 定期的に ② 一斉に ③ 画一的に ④ 個別に

〔解説〕

  • 科目「労働基準法」:難易度「普通」
  • 解答根拠

最判昭和43.8.2「西日本鉄道事件」

  • 事案概要

Y社は、陸上運輸業を営む会社であったが、乗務員による乗車賃の不正隠匿を防止等する目的で、「所持品の検査を求められたときは、これを拒んではならない」旨の規定を就業規則に定めていた。

しかし、所持品検査において、電車運転手であるXは、帽子とポケット内の携帯品は差し出したものの、靴については、所持品ではないので検査はできないはずであるとして、検査に応じなかった。

そこで、Y社は、Xの行為は就業規則所定の懲戒事由に該当するとして懲戒解雇に付したため、Xが無効であると訴えた事案

  • 論点

合理的理由に基づき、妥当な方法と程度の所持品検査を、就業規則の制度として従業員全員に画一的に実施する場合、従業員に検査を受ける義務が生じるか。

  • 結論

生じる(所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。そして、このようなものとしての所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて行われるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務がある。)

〔第28回問題〕

労働基準法136条が、「使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して C その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」と規定していることからすれば、使用者が、従業員の出勤率の低下を防止する等の観点から、年次有給休暇の取得を何らかの経済的不利益と結びつける措置を採ることは、その経営上の合理性を是認できる場合であっても、できるだけ避けるべきであることはいうまでもないが、右の規定は、それ自体としては使用者の D を定めたものであって、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない。

また、右のような措置は、年次有給休暇を保障した労働基準法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないものではあるが、その効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、 E 無効となるとすることはできないと解するのが相当である。

〔選択肢〕

C:① 解雇 ② 賃金の減額 ③ 超過処分 ④ 降給、降格

D:① 義務 ② 権利濫用の禁止 ③ 配慮義務 ④ 努力義務

E:① 公序に反して ② 不法行為として ③ 信義に反して ④ 不当労働行為として

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